東京地方裁判所 平成7年(ワ)5247号 判決 1995年12月18日
埼玉県新座市片山二丁目八番一一号
原告
辨谷拓五郎
東京都千代田区霞が関一丁目一番一号
被告
国
右代表者法務大臣
宮沢弘
右指定代理人
高野博
同
信太勲
同
田川博
同
木村忠夫
同
上田幸穂
同
山本善春
同
坂本重一
同
今村清孝
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、金一〇〇万円及びこれに対する平成七年四月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1(一) 原告は、平成六年二月二八日、輪島税務署長に対し、<1>被相続人辨谷栄の遺産相続に関する各相続人の申告した税額又は更正決定した税額、各相続人の支払った相続税の額及びその相続税の総額、<2>被相続人辨谷栄を管理者とする人格のない財団の証明及び右財団の管理人として届け出た相続人名及び右財団の名称と所在地について、相続に関する証明申請を行った。そして、輪島税務署長が証明書を交付しなかったため、原告は、平成六年三月二三日、右不作為について異議申立てを行ったところ、右税務署長は、同年五月二四日、右異議申立てを却下する旨の決定をした。
(二) 原告は、平成六年四月一八日、金沢税務署長に対し、<1>相続人辨谷はしに関して、被相続人辨谷栄の相続のため配偶者控除を受けていること及び実際に取得した遺産、<2>相続人辨谷貞造に関して、被相続人辨谷栄の遺産の土地二八筆及び建物二棟について、当該遺産はすでに相続人辨谷貞造が遺産分割により取得していること、金沢市湯桶田子島町チ一〇番地三、二五、二六の地上権が遺産であること又は右物件は遺産であったが、当該相続人が取得したこと、<3>被相続人辨谷栄を管理人とする人格のない財団の証明及び右財団の管理人として届け出た相続人名と右財団の名称と所在地、<4>原告が右財団設立者故桜井兵五郎から贈与又は遺贈を受けた財産を現在取得管理をしている相続人及びその財産、<5>被告相続人辨谷栄の遺産相続に関する各相続人の申告又は更正決定をした税額、各相続人の支払った相続税の額及びその相続税の総額について、相続に関する証明申請を行った。そして、右税務署長が証明書を交付しなかったため、原告は、平成六年五月一六日、右不作為について異議申立てを行ったところ、金沢税務署長は、同年五月二六日、右異議申立てを却下する旨の決定をした。
(三) 原告は、輪島税務署長が、前記原告が証明を求めた事項につき回答をしなかったため、平成六年四月一一日、金沢国税局長に対し、右不作為につき審査請求を行った。金沢国税局長は、同年五月一八日、右審査請求を却下する旨の決定をした。
(四) 原告は、輪島税務署長及び金沢税務署長の異議申立てに対する各決定を不服として、金沢国税局長に対し、平成六年六月一五日、審査請求を行った。金沢国税局長は、同年六月二九日、右審査請求を却下する旨の裁決をした。
(五) 原告は、東京国税局長に対し、平成六年四月五日、<1>被相続人辨谷栄を管理人とする人格のない財団の証明、右財団の管理人として届け出ている相続人名及び右財団の名称と所在地、<2>被相続人辨谷栄が右財団の設立者故桜井兵五郎の遺産相続について支払った相続税、原告が故桜井兵五郎から贈与された遺産について支払った相続税、昭和二九年一月一二日に死亡した被相続人の右財団について相続人が支払った相続税及び現在に至るまでの各相続人の更正又は修正申告の有無について、相続に関する証明申請を行った。そして、東京国税局長が証明書を交付しなかったため、原告は、平成六年五月九日、右不作為について異議申立てを行ったところ、東京国税局長は、同年六月三日、右異議申立てを却下する旨の決定をした。
(六) 原告は、平成六年六月六日、国税庁長官に対し、前記(五)の証明を求めた事項につき証明書を交付しないこと、また、異議申立てにつき決定をしないことを理由に審査請求を行った。国税庁長官は、同年六月二八日、右審査請求を却下する旨の裁決をした。
(七) 原告は、国税庁長官に対し、平成六年六月二七日、前記東京国税局長の異議申立てに対する決定を不服として、審査請求を行ったところ、国税庁長官は、同年九月二二日、右審査請求を却下する旨の裁決をした。
(八) 原告は、国税庁長官に対し、平成六年八月八日、<1>被相続人辨谷栄を管理人とする人格のない財団の証明、右財団の管理人として届け出ている相続人名及び右財団の名称と所在地、<2>被相続人辨谷栄が右財団の設立者故桜井兵五郎の遺産相続について支払った相続税並びに原告が故桜井兵五郎から贈与並びに遺贈された遺産について支払った相続税及び当該遺産を取得した者の氏名につき、相続に関する証明申請を行った。しかるに、国税庁長官は右証明書を交付しなかった。
2(一) 本件財団設立者の故桜井兵五郎は、高度の公益事業を行う者として、自己の全部の資産を、本件財団の目的である寺院の本殿を建立し、付近一帯を名勝の地とするために提供することにつき、所管庁から認可を受け、その実行を原告に託して死亡したものであり、原告は、右設立者から本件財団の権利と義務を相続したものである。
(二) 前記1の証明庁の長は、原告の前記1の各申請を違法にも却下等し、その結果、本件財団の設立者から原告に与えられた諸権利の行使が不可能になり、従って、本件財団設立者の財団の目的の実行が不可能になり、原告に精神的苦痛と経済的な損害を与えた。
(三) また、現在、金沢家庭裁判所に係属している平成元年(家)第七五五号遺産分割事件において、原告は、本件各証明が却下等されたことにより、十分に資料を収集することができず、公正な裁判手続きを受ける権利を不当に侵害され、また、本件各証明書が交付されない結果、現在まで審判がなされず、原告は、経済的にも精神的にも損害を被っている。
(四) 右損害を金銭に評価すれば、一〇〇万円を下ることはない。
3 よって、原告は、被告に対し、請求の趣旨記載の判決を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因事実1(一)ないし(八)の事実は認める。
2 同2(一)の事実は不知。
同2(二)ないし(四)は争う。
3 同3は争う。
三 被告の主張
(輪島税務署長の処理等の適法性)
1 国税局長、税務署長が納税者の請求に応じて証明書を交付する事項は、国税に関する事項のうち納付すべき税額、納付した税額、未納の税額、所得税又は法人税に関する所得の金額で申告及び更正並びに決定に係るものに限られており(国税通則法一二三条一項、同法施行令四一条一項)、また法定納期限が証明書の交付請求書を提出する日の三年前の日に属する会計年度前の会計年度の国税に関するものは右に該当しないものとされており(同施行令四一条二項三号)、相続税の法定納期限は相続税法二七条(平成四年法律一六号による改正以前のもの)及び三三条により、その相続の開始があったことを知った日から六月以内とされている。しかるに、原告が証明を求めた事項は、被相続人辨谷栄の相続に係る相続税の額に証明については、辨谷栄が昭和二九年一月一二日に死亡しており、税務署長が証明すべき年分ではなく、また、人格のない財団等の証明は、国税に関する事項でないため税務署長が証明する事項には該当しないものであった。そこで、輪島税務署長は、原告に対し証明書を交付しないこととした。
また、行政不服審査法上の「不作為」とは、行政長が法令に基づく申請に対し、相当の期間内になんらかの処分その他の公権力に当たる行為をすべきにもかかわらず、これをしないことであるが、前記のとおり輪島税務署長が原告に対し本件回答をしないことは、行政不服審査法上の「不作為」に該当しないため、原告の異議申立ては不適法であり、これを同法五〇条に基づき却下したものであり、何ら違法なものではない。
(金沢税務署長の処理等の適法性)
2 前記1と同様の理由で、なんら違法なものではない。
(金沢国税局長の処理等の適法性)
3 行政庁の不作為についての不服申立ては、異議申立て又は当該不作為庁の直近上級行政庁に対する審査請求のいずれかをすることができるが、両方をすることはできないところ(行政不服審査法七条)、原告は、平成六年三月二三日輪島税務署長に対し異議申立てを行っているにもかかわらず、金沢国税局長に対しても審査請求を行ったものであり、金沢国税局長は、同年五月一八日、行政不服審査法五一条に基づき却下する旨の裁決をした。
4 行政庁の処分に不服のある者は、審査請求又は異議申立てをすることができるが、行政不服審査法に基づく処分は除くものとされているところ(行政不服審査法四条)、原告が、金沢国税局長に対し審査請求をした輪島税務署長及び金沢税務署長の処分は同法に基づく処分であり、不服申立てができないものである。したがって、金沢国税局長は、同法四〇条に基づき却下する旨の裁決をした。
(東京国税局長の処理等の適法性)
5 前記1と同様の理由で、なんら違法なものではない。
(国税庁長官の処分等の適法性)
6 国税庁長官は、東京国税局長が本件証明書を交付しないことについては、原告が既に東京国税局長に異議申立てを行っていること、右異議申立てに対し決定をしないことについては、右異議申立て自体が不適法であることから、不作為庁が何らかの応答をする必要はなく、また、東京国税局長が送付した異議決定書の謄本が平成六年六月八日に送付されたと認められるところから、原告の右異議申立てに対する不作為はなく、同年六月二八日、行政不服審査法五一条に基づき却下する旨の裁決をした。
7 国税庁長官が、東京国税局長の異議申立てに対する決定を不服とする審査請求を却下する旨の裁決をしたことは、前記4と同様の理由で、なんら違法なものではない。
8 国税庁長官に、本件証明書を求める法律上の制度はなく、原告に対し本件証明書を交付しないことは、なんら違法なものではない。
四 被告の主張に対する反論
国税通則法の証明制度の趣旨は、第三者の権利を保護を図ることを目的としたものであり、納税者の申請に基づくものは昭和二八年九月二六日付け国税庁訓令第五号にあるとおり、各証明庁の裁量により証明を発行することができることは明らかであり、原告の本件証明申請は法令に基づかないものとする被告の主張は失当である。
第三証拠
本件訴訟記録中の書証目録の記載を引用する。
理由
一 請求原因一1(一)ないし(八)の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、本件各処理等が適法にされたか否かにつき判断する。
(輪島税務署長、金沢税務署長、東京国税局長の各処理等)
1 国税通則法一二三条一項、同施行令四一条一項によれば、国税局長、税務署長が納税者の請求に応じて証明書を交付する事項は、国税に関する事項のうち、納付すべき税額、納付した税額、所得税又は法人税に関する所得の金額で申告及び更正並びに決定にかかるもの等に限られており、また同施行令四一条二項三号によれば、法定納期限が証明書の交付請求書を提出する日の三年前の日に属する会計年度前の会計年度の国税に関するものは前記証明すべき事項に該当しないところ、相続税法二七条(平成四年法律一六号による改正以前のもの)、同法三三条によれば、相続税の法定納期限は、その相続の開始があったことを知った日から六月以内とされている。
原告の主張によれば、原告が輪島税務署長、金沢税務署長、東京国税局長に各証明を求めた事項のうち、被相続人辨谷栄にかかる相続税の額の証明については、辨谷栄が昭和二九年一二月一二日に死亡していることから、税務署長らが証明すべき年分でないことは明らかであり、また、財団に関する証明は、国税に関する事項に該当しないから、税務署長らが証明する事項に該当しないことは、これまた明らかである。
右によれば、輪島、金沢の両税務署長及び東京国税局長が原告に対し、原告主張の証明書を交付しなかったことは、何ら違法ではない。
(金沢国税局長、国税庁長官の各処理等)
2 行政庁の不作為についての不服申立ては、異議申立て又は当該行政庁の直近上級行政庁に対する審査請求のいずれかをすることができるが、その両方をすることはできないところ(行政不服審査法七条)、原告は、前記のとおり輪島税務署長に対して異議申立てを行い、更に金沢国税局長に対して本件審査請求を行ったものであり、右審査請求は不適当なものであり、金沢国税局長の行った却下する旨の裁決は、何ら違法ではない。
3 行政不服審査法に基づく行政庁の処分は、審査請求または異議申立ての対象にならないから(行政不服審査法四条)、金沢国税局長が行った輪島税務署長及び金沢税務署長の処分(行政不服審査法に基づく処分であることは明らかである。)に対する審査請求及び国税庁長官が行った東京国税局長の処分(行政不服審査法に基づく処分であることは明らかである。)に対する審査請求を各却下する旨の裁決は、何ら違法ではない。
(国税庁長官の処理等)
4 前記のとおり、東京国税局長が原告主張の証明書を交付しなかったことは、なんら違法なものではなく、また東京国税局長は異議申立てを却下する旨の決定をしているのであるから、原告の異議申立てに対する不作為はなく、国税庁長官が行った審査請求を却下する旨の裁決は、何ら違法なものではない。
5 現行法上、国税庁長官に対し相続に関する証明書を求める制度はないから、原告に対し、本件証明書を交付しないことは、何ら違法ではない。
三 以上の次第であるから、原告の請求は理由がないから、これを棄却し、主文のとおり判決する。
(裁判官 滿田忠彦)